「本郷の医工連携」発展へ【日医機協】
製販企業とものづくり企業の連携が重要
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日本医療機器協会(理事長=今村清氏、東京都文京区、日医機協)は、2013年から取り組んでいる医工連携事業の内容や成果を発表するため、6月28日㈭午後1時30分から、東京・本郷の医科器械会館で「本郷の医工連携 記者説明会~取り組み事例と新製品・開発品を踏まえて~」を開催した。
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開会にあたり、あいさつした今村理事長は医工連携事業に取り組み始めた背景にふれ「医療機器産業には製造販売業、製造業、販売業の3つの業種があり、製造販売企業が医療機器を開発し、製品化している。製造は自社で製造する場合と、協力企業の製造業社に委託する場合がある。昨今では製造業社の後継者不足や製造技術・機械の遅れなどが課題となっており、それに対応するため、医療機器産業への参入をめざす全国のものづくり企業と連携して、医療機器の開発や製造を行い、この地(メディカルヒルズ本郷)から世界に発信していくことを目的に、医工連携事業をスタートさせた」と説明した。
このあと、記者説明会では中島孝夫副理事長(医工連携委員会委員長)が『本郷の医工連携』、常光・札幌研究開発室の薬袋博信課長が『医工連携 製販の役割と落とし穴』をテーマに、それぞれプレゼンテーションを行った。
引き続き、医工連携の成果発表が行われ、中島副理事長が自身の会社・秋山製作所の社長として新製品を発表。また、フジタ医科器械の前多宏信社長が、開発中の製品について説明した。
ものづくり企業の技術活用
展示商談会は5年間で66回開催
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まず、プレゼンで中島副理事長は本郷の医工連携について「従来の医工連携は製販企業が医療機関の困りごとなどのニーズから、医療機器の開発、製品化をしてきたが、製販企業とものづくり企業が連携する本郷の医工連携では、製販企業はものづくり企業の技術から新製品のヒントや、開発・製品化への技術力を得ることができる。一方、ものづくり企業は製販企業から医療ニーズが得られるほか、法規制への対応を製販企業に任せることができる」と製販企業とものづくり企業の両社がウィンウィンの関係にあることを強調した。
製販企業がものづくり企業と連携することの意義にふれては「製販企業は自社にない技術で新製品開発ができ、部品の置き換えによるコストダウンも図れる場合もある。主力製品とものづくり企業との共同開発製品を抱き合わせることで販売増にもつながるほか、医学教材や手術訓練キットなどの市場ニーズの大きい周辺機器を開発すれば販売網の拡大にもなる」と解説した。
日医機協が所有する本郷の医科器械会館で開催している、ものづくり企業の展示・商談会に言及しては「本郷・湯島エリアは医療機器製販、販売業者の国内最大の集積地(400社以上)で、展示・商談会には毎回、本郷・湯島エリアを中心に多くの製販業者が来場し、自社製品に活用できる技術を求め、ものづくり企業と交流を深めている。現在では本郷・湯島エリア400社のうち1割の企業が公的資金を活用して、ものづくり企業との医工連携を推進。それら企業は平均15~20件の開発案件を温めており、そのうち開発フェーズに入っているのは平均3~5件となる」と展示・商談会の成果を報告した。
なお、ものづくり企業の展示・商談会は2013年7月に第1回を開催以来、5年間で66回開催され、47都道府県の半分以上が参加している。毎回、全国のものづくり企業が、自社の技術を医療機器や介護機器の開発・改良に使ってもらおうと、実際に加工した要素部品・部材を展示し、その高い技術力をPRしている。日医機協では今後も積極的に展示・商談会を開催していく方針で、来年2月までに計10回の開催が予定されている。
企業間のつながりが大切
医工連携の『落とし穴』も解説
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次いで、薬袋課長は医工連携での製販企業の役割として、①医療機器の困りごとの収集・市場調査②ものづくり企業との連携による開発③医療機器化のための法対応④完成品の拡販活動・市販後対応――の4点を列挙したあと、「老舗中小製販企業は医工連携に避ける人員も少ないが、毎年、150社以上のものづくり企業が出展する本郷の展示・商談会で、ものづくり企業と交流を深め連携することで効率的な製品開発ができようになる。老舗中小製販企業は全国に販売網を確立しているので、ものづくり企業はその販売網を活用できる」と製販企業とものづくり企業とのつながりの重要性を説いた。
また、医工連携の『落とし穴』にもふれ「医療機器産業は右肩上がりの産業といわれるが、その一方で、医療費は毎年、増加している。医療費の増加は国の赤字が増えていることなので、政府は医療費の削減に取り組んでいる。病院は診療報酬で得られた医療費から医療機器を購入しているので、医療費が削減されると医療機器を購入する財源が減ることになる。つまり医療費の右肩上がりということは成長産業ではない、という状況ともいえる」と医療機器の市場動向は違う側面から見ることも大切であることを解説した。
医工連携で開発した医療機器の失敗例を挙げては「新規参入したものづくり企業が自社の技術力をベースに画期的な医療機器を開発するケースは多くあるが、製品コンセプトが反映できず、画期的であるほど薬事対応や販路開拓が困難となり、結果的に上市できないことがあった。また、医療機器ビジネスの経験が浅いものづくり企業が、医師からのアドバイスを受け製品を開発したものの、その医師以外は誰も評価しないニッチ製品だったケースもある」と作りやすい製品と売れない製品の違いを紹介し、成功のコツは製販企業とものづくり企業の信頼関係が大切になる――と強調した。
秋山製作所が医工連携で2製品開発
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引き続き、医工連携の成果発表で、縫合針や縫合糸を製造販売する秋山製作所の中島社長は本郷の展示・商談会で、吹き戻しから呼吸や嚥下(えんげ)機能の訓練をする『長息生活』を開発した、ものづくり企業のルピナス(広島県)と、皮膚をリアルに再現する技術でさまざまな医療材料を開発する、ものづくり企業のレジーナ(埼玉県)の2社と知り合い、医工連携により医療機器を開発したことを発表した。
中島社長は「展示・商談会でルピナスの『長息生活』を見て、これは面白い、雑品だからすぐ売れると評価し、販売を請け負った。その後、医療現場のニーズを吸い上げ、嚥下・口腔機能の訓練を目的とした簡易型呼気計測器『タスクル』を共同開発し、製品化した。一方、レジーナとは縫合針と縫合糸の販売の付加価値として、縫合練習ができる道具の開発を検討している中で、医療現場のニーズを吸い上げ、リアルな人肌を再現した製品をレジーナと共同で開発した」と発表し、開発した2製品の特徴や販売方法などを説明した。
医工連携で新事業開拓
フジタ医科器械が「生体モニター」開発
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続いて、発表の脳神経外科手術鋼製器具の製造販売などを手がけるフジタ医科器械は、新たな診療科領域に事業を拡大すべく、ファブレス(工場を持たない会社)でありながら、医工連携を通じ『災害医療対応スマートフォン型生体モニター』を開発中で、個々のデバイスとIT技術はそれぞれ違う、ものづくり企業と連携して取り組んでいる。
フジタ医科器械の前多社長は「当社が開発中の生体情報モニターは可搬型で完全無線化となり、救急搬送時に搬送先の病院の医師と患者の生体情報をリアルタイムで共有できる。通信にはブルートゥース技術を活用しているが、通常のブルートゥースは1対1の通信なので、開発当初は複数の生体情報を表示する1対複数のブルートゥース技術の開発に非常に悩んでいた。そんな時に、研究開発支援ソフトウェア開発を手がける、ものづくり企業のユーワークス(文京区湯島)と出会い、1対複数のブルートゥース技術を開発していただいた」とものづくり企業とのマッチングの成功例を紹介した。