医工連携

「胎児モニタリング装置」開発【東北大とアトムメディカル】

産学連携で次世代胎児モニタリング装置を製品化

胎児モニタリング装置
「アイリスモニタ」

東北大学(東北大学病院=八重樫伸生病院長、医学系研究科融合医工学分野=木村芳孝教授)とアトムメディカル(松原一郎社長)は、4月12日㈭午後2時から、東京・丸の内の東北大学東京分室で「記者会見」を開き、次世代胎児モニタリング装置「アイリスモニタ」を共同開発し、製品化に成功したことを発表した。装置は7月から販売が開始される。

アイリスモニタは母体腹壁に専用電極を貼り、非侵襲的に胎児心拍数を計測する装置。母体腹壁から母体雑音と胎児の信号が混合した生体電気信号を計測し、そこから胎児の微小な生体電気信号を抽出する、全く新しい原理を用いた胎児心拍数モニタリング装置となる。

早い妊娠週数からの計測が可能で、臨床試験では妊娠24週からの実績があり、この時期から非侵襲的に胎児心拍数を計測できる装置は世界初。また、開発、知財管理、臨床試験、製品化にいたる全行程を産学連携で実施した臨床現場発の純国産医療機器となる。

アイリスモニタに搭載された特出すべき技術としては、『胎児生体電気信号抽出ロジック技術』がある。同ロジック技術により母体腹壁計測信号から母体成分のみを取り除き、胎児心拍信号成分の特徴を検出し、その特徴を参照信号として胎児生体電気信号を抽出する。

従来の技術では母体と胎児の信号成分が重なった部分やノイズが大きい場合は、それぞれの信号を分離するのが難しかったが、抽出ロジック技術により、連続的な胎児生体電気信号の計測を可能にした。

一方、ノイズ低減対策に関しては、母体腹壁に貼る電極として導電ペースト多層構造のシート電極を開発したほか、電極接続ケーブル先端の電極コネクタ内部に高入力インピーダンスの初段増幅器を配置して、ノイズを低減させる。

さらに、ノイズカットシート(ベッド・母体用)は、繊維の柔軟性と金属の導電性を兼ね備えた導電性布を内部に織り込んでいるので、ノイズを低減した計測環境を提供する。

なお、アイリスモニタの『アイリス(iRIS)』とは、ギリシャ神話に出てくる虹の女神。アイリスモニタには母と子の命をつなぐ架け橋になってほしいという願いが込められている。

胎児医療分野の新たな方向へ
産学連携には『パッション』が大事

会見を行う(右から)東北大学産学連携担当の矢島敬雅理事、東北大学病院の八重樫伸生病院長、東北大学大学院医学系研究科融合医工学分野の木村芳孝教授、アトムメディカルの松原一郎社長、同社の松原英雄専務、同社モニタリングシステム部の須藤一彦課長

記者会見には東北大学産学連携担当の矢島敬雅理事や東北大学病院の八重樫伸生院長、東北大学大学院医学系研究科融合医工学分野の木村芳孝教授、アトムメディカルの松原一郎社長、アトムメディカルの松原英雄専務、アトムメディカルモニタリングシステム部の須藤一彦課長――らが出席。それぞれの立場でアイリスモニタの開発、商品化について発表した。

臨床ニーズから研究がスタート

会見で、矢島理事は「東北大学は医学と工学の両分野に強みを持ち、全国に先駆けて医工学研究科を設けている。この医工学研究の成果とアトムメディカルの技術力が融合し、世界最高水準の医療機器を産学連携で作り出すことができた。大学が担っている研究成果を社会に役立てる、という良き前例なったと考えている」とコメントした。

八重樫院長は「今回は臨床現場で一番必要とされるものは何か、現場ニーズから出発した開発だった。どうやったらお母さんのお腹の中の赤ちゃんの情報を得ることができるか、その解決法(ニーズ)をアトムメディカルとともに取り組んできた。その結果、産婦人科の先生や助産師の方々、そして妊婦さんにとっても非常に役立つ装置が誕生した」と今回の開発は現場ニーズからスタートしたことを明かした。

松原社長は「今回の開発は非常に難しい部分もあったが、東北大学の皆さまの胎児医療に対する熱い思いに心打たれ、開発に勤しんできた。産学連携はスキルや仕組みではなく、最後は『パッション』が大事だと痛感した」と開発にかけた熱い思いを明かした。

アイリスモニタを開発した3つの意義に言及しては「1つ目は日本の新生児医療は世界をリードしており、その日本からアイリスモニタをリリースできたことは非常に大きな意義がある。アイリスモニタにより日本、そして世界の胎児医療のあり方が変わることにつながる。2つ目は予防医学の観点からも、より安心安全なお産につながればと思う。3つ目は本当の意味での産学連携の成功を証明したいと思っている。東北大学と当社は多くの小さな命を救うために、(アイリスモニタにより)胎児医療の新しい形を作り、そして普及に取り組んでいく」と今後も新生児医療分野に貢献していく考えを表明した。

妊娠中期から心拍細変動を計測

木村教授は現在、胎児モニタリング方法として最も普及している超音波ドプラ法の課題にふれ「超音波ドプラ法では心拍数の詳細な変化(心拍細変動)が計測できないほか、連続的に心拍数を計測できるのは循環動態が変動する妊娠32週頃からとなる。ある程度、大きくならないと計測できない」と課題を指摘した。

これを踏まえ、アイリスモニタの開発経緯について「妊娠中期の小さな赤ちゃんの状態を確認するために、より精度の高い心拍数モニタリング装置を開発する必要があった。約100年間にわたり、先人たちが幾度となく挑戦して、不可能といわれてきた胎児心電図装置の開発に挑戦することに至った」と新しい製品開発の必要性を感じ開発に着手したことを明かした。

アイリスモニタの可能性を説明しては「動物実験では心拍の細変動を調べると脳性麻痺の主な原因である脳出血を起こしやすいかどうかがわかった。アイリスモニタは胎児心拍の細変動が計測できるので、脳性麻痺を予防できる可能性がある。さらに、心拍細変動の分布から胎児の低酸素状態や胎児感染がわかるようになるほか、QT間隔から心機能を推定できるようになると、心奇形や不整脈を推定できるようになる」とアイリスモニタの有効性を説いた。