「医機連産業ビジョン」策定【医機連】
医療機器産業の在り方と方向性を示す
医療機器関係の20団体で組織する日本医療機器産業連合会(会長=山本章雄氏、医機連)は、6月11日㈫午後2時から、東京・大手町のKKRホテル東京で「記者会見」を開催した。会見では策定した『医機連産業ビジョン―いつでもどこでも安心して受けられる医療と健康への貢献―』の内容を山本会長が発表した。
医機連では2013年に「医機連産業ビジョン―医療機器産業の持続的な成長と発展をめざして―」を策定し、5年後の2018年にこれを継承・発展させた「医機連産業ビジョン―ソサエティ5.0を支える医療機器産業をめざして―」を策定している。
今回はそれに続くものとして、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや国際情勢の急激な変動など、大きな社会変化を経験した現在の視点から、少子高齢化が進む日本の医療機器産業の在り方と今後の方向性について検討し、ビジョンとして取りまとめた。
安定供給継続への使命を改めて認識
新産業ビジョンではまず、現状認識と予想される将来についてふれている。パンデミックや頻発する自然災害、国際紛争の激化により、医療機器産業は安定供給リスクとDXの遅れを経験し、医療機器の安定供給を継続し、医療と健康の維持・向上に貢献し続ける、という使命を改めて認識した――としている。
また、日本の人口は2040年に向け1,000万人以上減少し、医療・介護分野の従事者は100万人不足すると予測されている。医療機器産業には医療の効率化に資する医療機器を提供することで、医療・介護分野の担い手不足を補完するなど、幅広い場面での貢献が求められる――としている。
昨今ではAIやセンシング、小型化、通信などの技術が発展し、健康・医療はますます身近なものとなりつつある。これにともないアカデミア・スタートアップ発のシーズを画期的な製品として迅速に患者・医療現場に届けるため、業界と関連機関が協働して、供給リスクに前もって対応し得る施策・制度の在り方を議論する必要性が求められる――としている。
世界市場に目を向けては、日本の医療機器産業は欧米に加えて中国や新興国の台頭により、市場規模の伸び・世界シェア共に低下傾向にある。このような現状に危機感を持ち、スタートアップ企業や他産業からの参入を含めて、業界内外のプレーヤー同士がダイナミックに連携・協業し、市場全体の活性化にも積極的に取り組む必要がある――としている。
イノベーションの実現へ環境を整備
これらの現状認識を踏まえ、新産業ビジョンでは『いつでもどこでも安心して受けられる医療と健康への貢献』の実現に向け、医機連が取り組むべき7つの重要事項(下記参照)を示している。
「産業ビジョン」の実現に向けた医機連の7つの取り組み
① イノベーションを実現し社会に届けるための環境整備の促進
② 継続した安定供給の実現に向けた取り組み
③ 医療機器・技術のグローバル化を通じた医療機器産業の発展
④ 国民のヘルスリテラシー向上への貢献
⑤ 持続可能な社会に向けた地球環境と医療の質のバランシング
⑥ 医療機器産業の基盤となる人材獲得と育成
⑦ 健康・医療に貢献する健全で信頼される産業への研鑽
具体的には、①の「イノベーションを実現し社会に届けるための環境整備の促進」では、イノベーションの実現には研究開発の促進と社会への普及の2つの環境整備が重要であるため、▽新たな技術を融合したイノベーティブな製品・技術の開発が促進される環境の整備▽イノベーションを適正に評価し、社会実装を進めるための魅力的な市場環境の整備▽データドリブンの開発を促進する環境の整備――を推進する。
②の「継続した安定供給の実現に向けた取り組み」では、医療機器産業は大企業から中小企業まで多様な企業が、開発・生産から流通、適正使用支援や安全管理、メンテナンスに至るまで担うことにより、安定供給を確保していることを踏まえ、▽有事を含む医療機器などのサプライチェーン強靭化の環境整備▽医療機器などのサステナブルな供給のための環境整備――に取り組む。
③の「医療機器・技術のグローバル化を通じた医療機器産業の発展」では、顕著な伸びが予測される海外市場への展開を促進するため、▽企業の海外進出への貢献(国際標準、国際整合の推進など)▽海外規制・標準化関連団体(IMDRF、GHWPなど)との交流・連携――を図っていく。
④の「国民のヘルスリテラシー向上への貢献」では、医療機器を模した製品に関する情報が、医療機器に関する情報収集の妨げになっている状況もあることから、▽医療機器などに関する正しい情報の国民への提供▽1人ひとりの健康を支える、個人に最適な医療提供の実現に向けた環境整備――を促進する。
⑤の「持続可能な社会に向けた地球環境と医療の質のバランシング」では、医療水準を維持・向上するための利便性・経済性と環境保護との両立を目指し、▽製品ライフサイクルを通じた脱炭素、化学物質の適正管理の推進▽製造および物流・医療現場における地球環境への貢献――を実施していく。
産業の基盤となる人材獲得と育成へ
⑥の「医療機器産業の基盤となる人材獲得と育成」では、医療機器産業で活躍する人材の確保は産業発展のみならず、医療機器の継続的な安定供給を守るためにも重要であることから、▽医療機器産業の魅力・意義などの情報発信による異業種を含めた人材の獲得▽医療機器産業向け人材の育成▽医療機器産業の持続・発展を実現する医機連活動の強靭化――を行っていく。
⑦の「健康・医療に貢献する健全で信頼される産業への研鑽」では、医療機器産業は医療と健康増進の一端を担う産業として、高度な倫理観に根差した企業活動を実践していかなければならないため、▽企業統治(コーポレート・ガバナンス)、企業倫理の徹底と企業倫理・コンプライアンスの浸透▽国内外関係法令・ルールなどを参考にした企業倫理・コンプライアンス内容の検討――を進めていく。