「第98回医療機器学会大会」開催【日本医療機器学会】
現状を把握してステップアップ
日本医療機器学会(理事長=高階雅紀氏、東京都文京区)は、6月29日㈭~7月1日㈯の3日間を会期に、神奈川県のパシフィコ横浜で「第98回日本医療機器学会大会」(大会長=深柄和彦・東京大学医学部附属病院手術部教授)を開催した。今回は〝現状を把握してみんなでステップアップ〟をテーマに、パネルディスカッションやシンポジウム、各種講演会など多彩なプログラムが展開された。新型コロナウイルス感染症が5類に移行してから初となる今大会には、全国から多くの学会員が参加し、プログラムによっては立ち見もでる会場もあり、参加者らは熱心に各発表に耳を傾けていた。また、大会併設の「メディカルショージャパン&ビジネスエキスポ2023」にも連日にわたり、多くの来場者が訪れ、展示会場は熱気を帯びた。
大会1日目の6月29日は、4会場でマネジメントセミナーが開かれ、同学会が認定している滅菌技師・士やMDIC、臨床ME専門認定士らが受講し、▽滅菌管理業務▽アンガーマネジメント▽補完▽コンプライアンス――などのテーマごとに、受講者それぞれが自身の業務に役立つ知識を得ようと、熱心に勉強していた。
大会2日目の6月30日から学術大会が本格的にスタートした。4会場に分かれ、パネルディスカッション7題やシンポジウム3題、教育講演3題、大会長講演(下記参照)、市民公開講座、ランチョンセミナー8題、一般演題113題――など数多くのプログラムが展開された。各演者がテーマごとの問題点や方向性、将来予測などを発表したあと、参加者らとテーマにそった討論を繰り広げた。
また、会期中には「2022年度褒賞者表彰式」が行われた。今回は論文賞に『再使用可能および再製造医療機器の清浄性評価における新規残留タンパク質回収・定量法』で植松美幸氏ほか、著述賞に『ナースのためのME機器マニュアル第2版』で加納隆氏ほか、青木賞(日本医科器械資料保存協会)に『超音波エラストグラフィの非アルコール性脂肪性肝疾患への世界初の臨床報告からグローバル・スタンダード化に至る歴史的変遷』で米田正人氏が、それぞれ受賞した。
「メディカルシー2023」
医療機器分野の更なる飛躍へ
一方、大会併設の「メディカルショージャパン&ビジネスエキスポ2023」は、医療機器企業65社が出展し、最新の医療機器やシステムを紹介した。
開会式は6月29日午後12時50分から、パシフィコ横浜展示ホール前で行われ、あいさつした深柄大会長は「世の中、コロナの第何波という話もあるが、こうやって再び皆さまとお会いでき、そして多くの企業の皆さまにご出展いただき、大会長として感謝申し上げる。医療機器の分野は、人間の幸せに直結する非常に重要な分野で、これからの日本そして世界を牽引していく分野だと考えている。当大会が1つのきっかけとなり、さらなる飛躍を遂げることができるよう願っている」と述べた。
このあと、深柄大会長と高階理事長、松原一郎事業体部会長の3人がテープカット行い、開幕した。
開場した会場では出展各社が最新鋭の洗浄装置や滅菌装置、乾燥装置、感染制御関連製品、手術関連製品、病院設備機器――などを展示した。来場者らは自身の医療業務や患者の診断・治療に役立つ医療機器を求め、各ブースを見て回り、出展者から展示してある医療機器の特徴などの説明を受けていた。
また、展示会場内では公開セミナーも開かれ「必見!これから来る医療」、「医工連携を成功に導くために」の2題のセミナーを、来場者らが熱心に聴講していた。
そのほか、日本医科器械資料保存協会が印旛医科器械歴史資料館で保管している歴史的に貴重な医科器械のパネル展示が行われ、来場者は足を止めて見入っていた。
仕事に〝プライド〟を!
深柄大会長が「大会長講演」
第98回日本医療機器学会大会で「大会長講演」を行った深柄和彦大会長は「〝現状を把握してみんなでステップアップ〟にこめた思い」をテーマに講演した。
深柄大会長は講演で日本医療機器学会の特徴について「医療分野では、ここ10~20年の間、多職種多分野連携が注目されているが、当学会にはドクターやナース、滅菌管理部門スタッフ、医療機器企業など多くの方が会員となっており、何十年も前から多職種多分野連携が可能な場所となっている。会員の方々にはこの学会を通して多職種多分野間のつながりを広げて行っていただきたい」と同学会の積極的な活用を促した。
今後の医療のあり方に言及しては「日本はこれから少子化が進み人口が減少していくことが予測される中、われわれはどのような未来を描いていけば良いのでしょうか。今が良ければいいのか、あるいは自分たちの子供や孫世代が幸せになってもらうため今を頑張るのか」と聴講者に投げかけた。
これを踏まえ、私見として「人間も生物の1つでしかない。全ての生物は自分のために生きるのではなく、次世代につなぐため命を使っている。例えば鮭は川を命がけで上り、卵を産んで死んでいく。人間も1人ひとり未来について考えていく必要がある。そうしないと明るい未来はない」とした。
さらに「将来に対する不安から色んなことを我慢する時代だが、医療は我慢できない。医療機器がないから手術ができないので我慢してくれとは言えない。医療機器はこれからも発展させていかなければならない領域で、当学会はその領域に携わることができる大事な集まりだと思う。高機能を追い求めるだけでなく、人手やコストをかけずに、今まで以上のことができる医療機器やシステムを作っていくことが求められている」と語った。
滅菌技師・士や臨床ME専門認定士、医療機器企業の社員らに向けては「皆さまの給料を上げなければならないが、簡単には上がらないと思う。ならば、今は自身の仕事に対してプライドを持つことだと思う。今大会を通して自身の仕事がどれだけ重要なことかを認識し、プライドを持って仕事に従事していただければと思う」とエールを送った。