今後の医療機器の方向性を討論【医機連】
「みらい戦略会議シンポジウム」開催
日本医療機器産業連合会(会長=松本謙一氏、医機連)は、4月26日㈪午後1時から、ZoomによるWEB配信で「2021年度医機連みらい戦略会議シンポジウム」を『社会課題の解決に貢献する医療機器~コロナ禍から始まる医療機器のトランスフォーメーション』をテーマに開催した。
データの利活用に向け活動推進
シンポジウムでは、はじめに医機連みらい戦略会議の渡部眞也議長(医機連副会長)が同戦略会議で取り組んでいる活動として、①データ利活用②SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「AIホスピタルプロジェクト」へ協力機関としての参画③サイバーセキュリティ④国際展開――の4つの活動について紹介した。
データ利活用については「今後のイノベーションを作っていく上での大きなテーマとなる。有識者による講演会の開催や、日本医療研究開発機構(AMED)の研究成果データの取り扱いに関する意見交換会に参画して議論を重ねている」と述べた。
AIホスピタルプロジェクトへの協力機関としての参画では「AIアプリケーションを医療機関や患者に届けるためのプラットフォーム開発や、AIベンダーやアプリに対する規定整備に取り組んでいる」とした。
サイバーセキュリティに関しては「AMEDのサイバーセキュリティ研究班への協力や、さまざまなステークホルダーの活動(医療セプター、医療ISACなど)への参画、IMDRF(国際医療機器規制当局フォーム)サイバーセキュリティガイダンスの国内導入の検討を行ってきた」と報告した。
国際展開では「2005年以降、中国での官民対話への参画や、中国の医療機器団体との連携を推進している」と語った。
社会変化を支える医療機器を開発
また、医療機器イノベーションの潮流に言及しては「今、社会は大きく変わろうとしており、それを受け、医療の在り方も今後、変わっていく。それを支えるテクノロジーもどんどん実用化され、医療機器は大きな変革期にある。例えばAI画像診断支援やゲノム診断、ウェアラブルデバイス、ロボット手術――などが実用化されている」と述べた。
新型コロナウイルス感染症への対応にふれては「医療機器の立場から対応を進め、治療法や診断法、検査機器の開発、あるいは医療機器・部材の確保、増産、高度な医療機器を使う体制・トレーニングを支援してきた。引き続き産業界を挙げて取り組んでいきたい」とした。
ポストコロナ時代への展望については「医療提供形態や医療現場が変化し、遠隔、非接触の進展対応や、慢性疾患のマネージメントなどを支援する医療機器の開発が求められる。医療機器開発にはデジタル技術やデータ共有が基盤となる。新型感染症などの有事へのレジリエンス強化には、スピーディに対応できる技術基盤や人材の構築、緊急性の高い医療機器の国産化と備蓄管理などにも産業界として取り組んでいきたい」と表明した。
有識者5人が医療機器の方向性示唆
このあと、内閣府の八神敦雄健康・医療推進事務局長が『国としての施策、最先端の取り組み』、日本医師会の今村聡副会長が『AIへの期待、医療機器への期待について』、かわぐち心臓呼吸器病院の竹田晋浩理事長が『コロナ禍における医療現場から医療の継続性について』、シスメックスの久保田守上席執行役員が『コロナ禍における社会貢献』、アルムの坂野哲平CEOが『コロナ禍における医療ICTを活用した国際支援と社会経済活動支援』を、それぞれテーマに講演した。
引き続き、野村総合研究所の松尾未亜氏をファシリテーターに、演者全員がパネリストとなりラウンドテーブルディスカッションが行われた。
日本製品の強みは高品質
国際展開はスピード感が必要
このうち、シスメックスの久保田上席執行役員は、日本の医療機器が国際展開する際の課題にふれ「日本製品の強みは、やはり品質の高さにある。しかしハイクオリティだけでは世界の競合他社には勝てない。日本企業に求められるのは圧倒的なスピードです。ハイクオリティとハイスピードは、一見するとトレードオフの関係にあるようですが、両方をやらないと世界に打って出られないと思う」との考えを示した。
国際展開を成功させる3つの視点として、①環境認識の先取り②海外薬事規制対応③現地での開発体制の構築――を挙げ解説した。
環境認識の先取りでは「グローバル市場や環境認識を予測し先取りすることが必要。今回の新型コロナウイルス感染症に関しても、ワクチンが出てくるタイミングや、変異ウイルスの出現など先取りすることが大事だ」とした。
海外薬事規制対応では「日本企業はまず、日本の規制に対応してから海外展開を考えるが、残念ながら日本の規制に合格しても海外で売れるわけではない。あらゆる国の薬事規制を同時並行で対応していく必要がある」と解説した。
現地での開発体制の構築では「日本は大半の疾患で患者数が海外に比べて少ないので、患者数の観点からも現地で臨床試験に取り組む必要がある。現地での開発体制を構築してないと海外企業に追い付かない場合がある」と説いた。
日本製ECMOをアジア地域へ
装置と人材育成をセットで
また、かわぐち心臓呼吸器病院の竹田理事長は、世界と遜色ない治療成績が高い日本製の人工心肺装置ECMO(エクモ)を国際展開する際の課題について「欧米に比べ日本は新型コロナウイルス感染症における重症患者の治療成績がよい。ECMOがハイクオリティであるのに加え、治療にあたっている医療従事者の能力が高く、人数も確保されている。ECMOをアジア地域などへ展開する場合は機器と人材育成をセットで提供する必要がある。また、遠隔医療で現地の医師を指導したり、情報を共有して治療に参加することも考えていくことが必要だろう」と述べた。
医療従事者の過重労働をAIで解決へ
AI開発や利活用のプラットフォーム構想について、日本医師会の今村副会長は「日本の医療現場は医療従事者の過重労働が喫緊の課題となっている。医師が健康で働けることは国民に提供される医療の質、良質で安全な医療につながる。この課題解決に向けITやIoT、AIを活用したAIホスピタル構想に取り組んでいる。AI技術の開発は個々の企業で行っても海外では勝負できない。オールジャパン体制で開発する必要がある。AIホスピタルの考え方は海外にはないので、日本で一定の成果を示せれば国際展開もできるのではないだろうか」と語った。
アジア地域の健康長寿社会の実現へ
日本の医療の国際展開について、内閣府の八神健康・医療推進事務局長は「日本の医療は世界に誇れるものだと思う。医療の高い質を保ち、アクセスがよく、比較的安価に誰もが医療を受けられる。私どもは健康医療戦略の中で、アジアとアフリカの健康構想も重要な柱になっている。アジアやアフリカにおける健康長寿社会の実現をめざし、いくつかの国と協力覚書を結んでいる。それらの国の健康医療に資するだけでなく、医療機器産業などが活躍できる地盤を作っていきたい」との構想を明かした。
官民一体でIT ツールの活用を
IT業界から医療産業に参入したアルムの坂野CEOは、新型コロナウイルス感染症対策に関して「感染対策は医療関係者と行政関係者だけではだめで、国民や民間とどう連携していくかが非常に大事であり、われわれIT企業の『情報を集める』、『処理する』、『届ける』、『つなぐ』なども活用できると思う。ITは遠隔医療やモニタリングだけでなく、医薬品や医療機器のマーケティングや臨床試験などにも活用できる非常に使えるツールなので、官民一体で色んな取り組みができればと考えている」と強調した。