長崎市に開発拠点を新設【サクラ精機】
洗浄・滅菌装置など開発へ
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サクラ精機(社長=東竜一郎氏、長野県千曲市)は、長崎県および長崎市の誘致を受け、新たな開発拠点として、長崎市内に「長崎研究開発センター」を10月3日に開設した。長崎の主要産業は造船業で、船舶の圧力容器製造技術は、サクラ精機の主力製品である高圧蒸気滅菌装置の核となる缶体(第一種圧力容器)の設計、製造に共通する部分が多い。長崎に研究開発拠点を新設したことで、高い造船技術を有する人材を確保し、新技術・新製品の開発を目指す。
長崎に研究開発センターを開設した経緯としては、サクラ精機がここ数年、長野県における技術者の確保難が続いていたことにある。特に高圧蒸気滅菌装置の缶体の設計者の確保が喫緊の課題となっていた。一方、長崎県は造船業が中国や韓国の企業の台頭により、縮小を余儀なくされており技術者の雇用維持が問題視されていた。
このような状況を背景に約4年前、長崎県産業振興財団がサクラ精機の特約店を通じ、同社に企業誘致の件を打診。技術者確保を目標とする両者の利害が一致したことから本格的な協議を重ね、2021年10月25日に長崎県知事、長崎市長、サクラ精機の松本謙一会長の3者間で「立地協定書」を締結した。
開設した長崎研究開発センターは今後、長野本社の研究開発部門と連携しながら、▽滅菌装置の圧力容器の設計開発や洗浄装置の容器(洗浄槽)の設計開発▽ハードウェアに関連するシステム開発▽県内アカデミアや関連企業との産学連携を視野に入れた感染制御領域の要素技術開発や省エネ・高効率な新素材の開発――などに取り組んでいく。
技術者の雇用に関しては現地在住、Uターン希望者など3名の技術者を採用。3名は数か月間、長野での研修を経て、10月から長崎で勤務を開始した。センター責任者には長野から1名が赴任し、4名体制での業務開始となるが、今後5年間で10名の新規採用を計画している。
長崎研究開発センターは出島交流会館(長崎市出島町2―11)の10階に入居。窓らかの景観が素晴らしく長崎港が一望できるオフィスとなっている。今後は長野本社の研究開発部の一部門として業務を推進していく。長野とはWeb会議システムで常時接続され、データの共有や必要に応じ、すぐにコミュニケーションが取れる体制となっている。
日本の拠点を強化へ
長崎を人材育成の〝場〟に
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長崎研究開発センターの「開所式」は、10月3日㈪午前11時15分から、JR長崎駅前のホテルニュー長崎で行われた。
あいさつに立ったサクラ精機の松本謙一会長は「私どもの事業のキーワードは『グローバルニッチ』で、2つのカテゴリー(感染制御、病理診断)をグローバルに展開している。しかし、昨今の激動の世界情勢を考えると、グローバルな拠点に頼っていると何が起こるかわからないので、これからは日本の拠点を強化していきたい」との考えを示した。
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長崎研究開発センター開設の意義については「企業にとっての課題は半導体不足など色々あるが、最大の課題は人材育成ではないだろうか。そんな中にあって、長崎県さんから熱心なお誘いを受け、お話を伺い、視察をしたところ、まさにこの地こそ、われわれが求める人材育成の〝場〟であることを痛感した。今後は未来を見据え、この地で開発、製造を伸ばしていきたい」と明かした。
人材確保、大学との連携などを支援
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このあと、来賓祝辞が行われ、長崎県の大石賢吾知事は「サクラ精機様は歴史と伝統があり、同社製品は国内外の多くの方々に使用され、医療界、産業界の発展に多大なる貢献をしている。このようなすばらしい企業が長崎市に立地をしていただけることは大変喜ばしいことだと思う。これから長崎で若い方々がハイレベルな仕事をしていく上で、相応しい企業にご立地いただけ本当に感謝申し上げる。今後は人材の育成や確保、地元教育機関との連携など、県庁一丸となって支援させていただきたい」と長崎への企業立地を歓迎した。
長崎の発展、新たな産業育成に期待
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次いで、長崎市の田上富久市長は「長崎の産業振興策を考えた時に、これまでの造船や水産、観光という柱に加え、これからはライフサイエンス領域が伸びしろが大きい分野だと考えている。本日、お越しの長崎大学の河野学長はプラネタリーヘルスを掲げ、未来を切り拓くプロジェクトに邁進しておられる。その中でもライフサイエンス分野を得意とされており、長崎大学の医学領域の取り組みは長崎の産業にプラスの影響を与えると考えている。そういったタイミングでサクラ精機様が長崎にお越しいただいたことは、長崎の発展、未来への産業の在り方につながる大きな力になると思う。その意味でも今後のサクラ精機様の活動を県、産業振興財団と一緒にご支援させていただきたい」と述べ、サクラ精機の事業活動が長崎の新たな産業として成長することを期待した。
新たな価値を創造し医療の質向上へ
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引き続き、サクラ精機の東竜一郎社長が同社概要の説明に立ち「弊社は約420年前、和泉国堺の薬種商が始祖で、寛永年間に江戸日本橋本町に薬種問屋『松本市左衛門』を開業した。1630年代には長崎のハサミ職人が作った南蛮流外科器械を取り扱っていた。そして明治4年に医療機器部門を設立。これがサクラ精機の創業の年となる」と同社の歴史をひも解き、同社と長崎が関わりがあったことなどを説明した。
現在のサクラ精機の事業については「創業以来150年、感染制御と病理診断の両分野で分社・専門特化し、国内外で進化・深耕(グローバルニッチ)してきた。その中でサクラ精機は感染制御製品の開発・製造・販売を担っている。企業理念は3つあり、その中でも最も重視しているのが『あらたな価値の創造を通じ、世界規模で医療の質の向上に貢献する』で、これをモットーに日常業務にあたっている」と語り、同社の製品群や製造・営業・サービス拠点、関連施設などを紹介した。
最後に、サクラ精機の宮下芳文常務が「長崎研究開発センターは長野の研究開発部の一部として、4名でスタートしますが今後、大きく育てていきたい」と閉会の辞を行い、開所式は終了した。