2020年 年頭所感【一般社団法人 日本医療機器販売業協会(医器販協)会長 浅若博敬】
新年おめでとうございます。
日頃から我が業界の事業活動等へご支援、ご協力を賜り厚く御礼申し上げます。
当協会は一昨年設立20周年を迎えこれまでの活動をふまえ新たなる躍進へと動き出したところです。私はそのような状況の中、昨年6月に第5代医器販協会長に就任いたしました。
設立以来ご協力いただきました協会員の皆様に感謝申し上げますとともに、協会の発展にご尽力された歴代会長の皆様、また多くのご支援をいただきました関係の皆様に改めて感謝いたします。
現在、当協会は会員数約1000社(2019年10月1日現)となっております。今後も協会員とともに医療機関等への医療機器の安定供給により我が国の医療制度に寄与していかなければならないと決意を新たにしたところです。そして安定供給と2本柱で医療の安全を支える適正使用支援業務につきましては、より質の高いパーフォーマンスを目指して取り組み、会員の社会的地位向上と業界の一層の発展につなげたいと考えます。
さて、まずこれまでの活動をふまえ今後の方針など申し上げたいと思います。かつて中医協などで内外価格差問題の要因の一つとされた業界による流通構造の複雑さに関しては、複雑化の原因を形成しているのは業界ではなくむしろ日本全国自由に医療サービスの提供が受けられる我が国の医療制度の下、多種多様な医療ニーズに業界が応えようとして構築されてきた結果であり、業界自らが進んで複雑な流通構造を作り上げたのではないことを主張してまいりました。この取り組みは業界の正しい姿を認識していただくという意味で成果がありました。そして、こうした業界の活動意義や真の姿を関係者に発信していく取り組みは今後もより深く浸透させていきたいと考えますが、加えてこれからは一般の方々にも裾野を広げ、我々業界の活動が国民の健康の維持に果たす役割が身近なもので、且つなくてはならない存在であることをアピールしていくことも重要ではないかと思います。業界に対する理解を深める取り組みを通じて、我々医療機器販売業界の直面する様々な課題が医療制度の中でごく一部の業界の問題として終始するのではなく、我が国の医療提供体制の持続可能性を考えるうえで重要な要素であることをより多くの方に認識していただかなければならないと感じます。
確かにこういった議論は専門性が必要で関係者だけで議論する方が効率的であるというご意見もあることは承知しています。しかし、我々業界が常に果たそうとしているミッションは「すべては患者さんのために」医療機器を安心と安全を添えてお届けするということですから、対象となるのは治療中の方や要介護状態となり医療機器を使用している方だけではないのです。健康な方でも我々業界のミッション遂行の対象になり得るのです。健康なうちはこの医療を支える機能の維持・継続を真剣に考えようとしないだけではないでしょうか。遠い将来の話、自分には関係のない話で済ませることなく、国民誰にでも関係する問題、社会全体の問題としてしっかり将来を見据えて取組んで欲しいと痛切に感じております。一業界の限られた問題という捉え方のままではこれまでの政策の延長に置かれ、生産的な施策もないままただ体力を消耗してしまうだけではないかと危惧されます。
また、近年特に急速に変化してきている我々業界をとりまく環境の変化に協会としていかに対応するかという課題もあります。現在のフリーアクセス国民皆保険制度は人口増をベースとしたものですが、急激な人口構造の高齢化に直面し、地域包括ケアシステムをいかに実現していくか、社会保障制度をどう再構築していくか議論されているところです。我が国の医療制度や国民のニーズへのレスポンスという観点から業界として今後どのような対応が必要になるか重要なテーマだと思います。業界はこれからも効率化を図りつつ地域医療へ貢献していかなければならないと考えますが、高齢化とともに進む少子化による労働力人口の減少も大きく影響しますので、働き方改革の流れもふまえながら検討していく必要があります。
そして、この効率化に関係してくると思われるものとして、昨年のUDI法制化を契機としてUDIの利活用推進の加速があげられます。各論部分の検討はこれからということですが、その根拠を法律に置くことになった以上UDIの適正な実施及びデータベースへの適宜、的確な反映とその運用状況のモニタリング機能など業界として貢献できる分野の検討をしっかり行うことは重要だと考えます。これまでどちらかというと産業界、行政の双方とも相手任せの感があったと思いますし、産業界内部でも温度差が感じられましたが法制化後は、トレーサビリティの追求はなぜ必要か、薬機法の理念である安全性の確保を再度認識しながら制度の運用にあたらなければならないと思います。そのうえで、UDIに関し業界として効率化に資する部分への提案もできればよいのではないかと考えます。
そこで、情報通信技術を使い受発注、在庫管理、請求業務などを包含した形でトレーサビリティの実現可能性に向けた検討も有効と考え、ⅠT、IoTを利用し個体識別情報を管理、運用する技術の研究開発事業に参画し、先端技術を駆使した医療機器の効率的流通に業界としていかにアプローチし提案できるか検討が動き出しました。このような取り組みの成果が今後さらに地域に密着した安定供給に貢献していくための方向性を考えるうえで参考になることを期待しております。
一方で、質の向上は継続的に取り組まなければならないテーマだと考えます。昨年11月に成立した改正薬機法を考慮すると、市販後の安全対策の強化とともに法令遵守体制の強化が盛り込まれており、我々業界も安心で安全な安定供給をこれまで以上に意識する必要があります。そのため、継続的研修、企業倫理研修など各種研修制度の充実、MDIC及びCDR認定制度の推進協力などを通してコンプライアンス重視と質の向上を図る体質の構築を引き続きめざすことにより業界への信頼を揺るぎないものにしていかなければならないと考えます。さらに、昨年はこれまでの想定をはるかに超える規模の自然災害が頻発しました。「すべては患者さんのために」この信念のもと業界は医療提供体制を支えておりますので、大規模災害が発生した際にも全国組織という利点を十分活かし、途切れることのない医療機器の安定供給に努めていく必要があります。災害対策に備え大災害時の対応マニュアルの改定・整備、各自治体との連携強化など引き続き取り組んでまいります。
ところで、世界の動きに目を向けると保護主義の高まりを反映し米中貿易摩擦、英国のEU離脱など内向き志向の議論が目立ちます。このような中、我が国はオールジャパンの問題として社会構造、国民の意識の変化をふまえながら今後のあり様を検討しておりますが、決して内向きの議論に走らず我が国全体としてどうあるのが好ましいのか意識していただきたいと思います。業界も我々の発展のみを目指していては、産業間のネットワークが隅々まで張り巡らされて互いに連携し合い全体として機能している現在の社会・産業構造の中では立ち行かないのは明らかです。
今後、協会も政策提言の実現のため、行政をはじめ関係する方々との議論を行うことになると思いますが、議論にあたっては協会設立当初からずっと持ち続けている業界の役割を常に軸として意識しながら臨みたいと思います。そしてステークホールダーの存在も認識しつつオールジャパンの中で我々業界の役割を考え、我々業界の機能が停止することは何を意味するのか、今後どうしていくことにより国民、業界ともに望む姿に進めるか議論していきたいと考えます。
私も令和の時代の初代として、協会設立にあたり当時の協会員の皆様から今日に至るまで引き継がれた熱い思いを初心としてしっかり胸に刻みながら業界の発展と協会の躍進に努めてまいる所存です。
協会員をはじめ関係の皆様方には今後、一層のご支援並びにご指導・ご鞭撻の程宜しくお願いし、私の年頭の挨拶とさせていただきます。