平成最後の新春に想うことごと 時代の激流に翻弄されない為に【一般社団法人日本医療機器工業会 理事長・松本謙一】
―Together and Alone―
〈森を見て木を見る時代〉
「米・中」貿易戦争に触発されるが如く、世界中が各国ごとに、各地域ごとに何となく、きな臭くなってきた。昨今では「チャイナイノベーション(中国発技術革新=日経ビジネス)」なる新語までとび出してきて、中国製の情報通信機器を使うと、企業はおろか国ごと米国の制裁を受けかねないというような物騒な時代になってきた。
確かに、かつては中国といえば「コピー・プロダクツ」「模倣品天国」とか揶揄(やゆ)されてきた時代も長かった。かく申す小生とて、ビジネスで苦い経験もしてきた。しかし今や世界でも有数の「IT大国」と迄言われる程の力をつけてきたことも事実と思う。昨今には、「世界で初めて月の裏側への着陸を目指す中国の無人探査機が、12月8日に四川省発射センターから打ち上げられた」との報道もあった。要は既成概念で何事も見て考えていると、「自社の歩むべき道」まで見誤ってしまう。「森を見て木を見るべき」一例であろう。
〈協調・競争〉
先般、海外の或る団体指導者と話をした時、今後の事業戦略について「Together and Alone」と言われた。これぞ「協調と競争」と思った。それから話は弾んだ。「ヘルスケア業界にあっても『IT化』が進んでくると、嫌でも「一社完結」は無理で異業種・同業他社との『連携』は不可欠になってくる。
しかし一方で、あくまで自社独自の技術には自信をもって果敢(かかん)にチャレンジしていく『競争心』は失ってはならない。従って「M&A」一つをとっても、徒(いたず)らに『規模の拡大』を求めるだけでは意味もないし、リスクも大きい。自社の至らざる点を補充するものでなければならない」と。まさに、これぞ論語に孔子が残された言「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」に相通ずるものでもあろう。まさに「君子は人と協調するけれども付和雷同はしない」のである。
〈外国人労働者の受け入れ〉
私事にわたり恐縮だが、弊社には以前から外国人正社員も多勢いるし、今春からは工場に技能労働者も入ってくる。このところ、改正入管法をめぐって国会でも議論が沸騰(ふっとう)してきているが、小生に言わせれば与野党ともにご尤もと思う。要は既に128万人いる外国人労働者は更に増え、暮らす期間も長くなる。すると「使い捨て労働力」が広がる懸念があるという。しかし「心」ある企業はそんなことをするであろうか。日本人であれ外国人であれ、小生は「『性善説』=人間の本性は善であり、仁・義を先天的に具有するという考え、それに基く道徳による政治を主張した孟子の説。荀子の性悪説に対立=広辞苑」を信ずるからである。
〈R‐SUD〉
「単回使用医療機器の再製造」推進協議会が出来て、はや1年を過ぎようとしている。産官学の有識者が参加の上で、新たに「洗浄のガイドライン」も作成されつつあり、産業界からの会員も異業者・大手の流通企業も含め30数社にのぼっている。しかし長年、実際の現場では、かなりの単回使用医療機器のリユースが行われてきたという現状も踏まえ、日本病院会からの要望との摺り合わせも含め、今後の推進にあたっては「医療機器の安全管理」「資源の有効活用・環境保全・経済性の向上」といった本来の目的に則し、医療現場従事者も交えた新たな運営方針により、そのスピードを上げていこうというのが、新年の抱負である。
〈正月の読書〉
年末年始の貴重な休みに「第九」「ジルベスター(大晦日)コンサート」「ニューイヤー・コンサート」等と並んで、正月の読書(再読含む)も楽しみの一つ。「時代を変えた科学者の名言(藤嶋昭)」もその一冊。「万事に先立ち、汝自身を尊敬せよ(ピタゴラス)」「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である(トーマス・エジソン)」「我思う。ゆえに我あり(ルネ・デカルト)」「美しい形は構造的に安定している。構造は自然から学ばなければならない(アントニオ・ガウディ)」等々、108人の天才科学者の名言はあらためて新鮮に感じられた。
〈おわりに〉
今年も世界的に激動の年となろうが、我が医療業界にとっては良き1年であることを心から祈念して筆を置く。
―以上―