医療機器開発支援の方向性を整理【AMED】
医療機器開発支援のあり方で「報告書」作成
日本医療研究開発機構(理事長=末松誠氏、AMED)は、昨年12月に「医療機器開発のあり方に関する検討委員会」を設置し、今後の医療機器開発支援の方向性について討議を行ってきた。討議を通して、社会ニーズや技術シーズの変化に対応した『医療機器開発の注目領域』を設定するとともに、医療機器開発に携わる企業や医師、研究者の意見を踏まえた『AMEDにおける医療機器開発支援の方向性』について検討を行い、このほど報告書として発表した。
社会ニーズを見据え対応
技術シーズの進展も予測
革新的な医療機器の開発には、開発開始から実用化までに、通常10年から20年ほどの期間を要するため、医療機器開発のターゲットには医療ニーズを中心に、国内外の中長期な社会変化を見据えたものである必要がある。また、医療機器の開発は要素技術を活用することから、要素技術の将来的な進展も予測して行うことが望ましい。
そこで、報告書では医療機器を取巻く国内外の中長期的な社会変化として、▽医療費適正化ニーズの高まり▽老化にともなう疾患への治療ニーズの高まり▽新興国における医療ニーズの高まり▽患者の医療参画・健康意識の高まり▽限られた医療資源下での医療提供ニーズの高まり▽少子高齢化に対する対応ニーズの高まり――の今後予測される6つの社会ニーズを列挙している。
要素技術の将来的な進展に関しては、▽遺伝子解析/編集技術▽デジタル技術(IoT、AI、ビッグデータ)▽医師の眼・手の支援技術(AR/VR、ロボット)▽生体適合性の高い素材・材料▽3次元プリンター技術▽小型部品の製造技術――の6分野を挙げ、進化を続ける各技術分野の方向性を予測している。
この社会ニーズと技術シーズから、報告書では医療のあり方の変化にふれ、①疾患の早期発見②診断・治療の標準化・高度化③個別化医療の進展④患者負担の軽減(低侵襲化など)⑤遠隔・在宅医療への対応⑥ライフステージに応じた課題解決⑦医療の効率化――の7項目を示し、各項目が『健康維持・向上~予防~診断~治療~予後』までの医療の各段階で生じる可能性を説いている。
開発の注目領域を設定
健康維持から治療、予後まで
また、報告書では医療機器産業の将来動向を踏まえ、今後の医療機器開発で注目される17領域(別掲参照、最後に掲載)を設定し、各領域における現時点で想定される機器・サービス開発の方向性を示している。
具体的には、①の「医療・健康情報に基づく健康改善」では、日常的に患者の生体情報を収集するセンシングデバイスや、収集した健康・医療情報に基づいた医学的な健康管理方法の開発を考えていく。
②の「遺伝情報に基づく疾患リスク診断・発症前介入」では、遺伝子情報と疾患の因果・相関関係に基づき患者個々人の疾患発症リスクを検査し、リスクに応じた予防措置の開発を考えていく。
③の「新たな早期検査の確立」では、疾患の早期発見につながる新たなマーカーを用いた検査・診断の開発を考えていく。
④の「診療現場での迅速診断の確立」では、検査室外(自宅、診療室、手術室など)での迅速で精度の高い検査の開発を考えていく。
⑤の「医師の技術・ノウハウの形式知化(メディカルアーツ)」では、熟練した医師の手技(メディカルアーツ)や診断・手術における意思決定のノウハウを再現できる診断・治療手段の開発を考えていく。
⑥の「ソフトウェアを用いた診断・治療の実現(SaMD)」では、患者が有しているデジタル機器などを通じて、患者データをアルゴリズム解析し、治療につながるアウトプットを提示するスタンドアロン型ソフトウェアの開発を考えていく。(医療機器に附属したソフトフェアではなく)
⑦の「高度化された画像・光学診断の実現」では、既存の画像・光学診断手段を改良し、診断精度の向上、迅速化、機能の融合などを実現していく。
⑧の「新興国や屋外・災害時での診断の実現」では、新興国や院外などの限られた医療環境での使用を前提とした診断手段の開発を考えていく。(小型化などの機能面の改良だけでなく、機能限定による廉価化も含む)
⑨の「既存の治療手段の改良・廉価化」では、特許の切れた既存の治療機器を改良し、高品質で廉価なジェネリック機器の開発を考えていく。(医療資源が限られる新興国への展開も想定)
➉の「人工臓器・組織の復元・再現」では、生体適合性・安全性が高く、生体本来の機能・姿に近い人工臓器・組織の開発を考えていく。
⑪の「コンパニオン診断・カスタムメイド治療の実現」では、治療前に特定の治療手段の有効性を診断する手段(コンパニオン診断)と、患者個々人の体格・骨格や遺伝情報などに適した治療手段の開発を考えていく。
⑫の「新たな低侵襲治療の実現」では、従来よりも低侵襲な手技(手術アプローチ)とその手技に用いる治療法や薬剤治療に置き換わる治療法の開発を考えていく。
⑬の「治療機器の生体適合性の向上」では、長期的な予後改善につながる生体適合性の高い素材(患者自身の自家組織含む)などの開発を考えていく。
⑭の「遠隔・在宅診断・治療への対応」では、病院外での患者による使用を想定した小型で簡易操作が可能な診断・治療手段や、医師が院内にいながら在宅患者の健康状態をモニタリング・診断する手段の開発を考えていく。
⑮の「老化により衰えた生体機能の補助・強化」では、老化や認知症などにより低下した生体機能を(運動、感覚機能、認知機能など)を補助・支援し、より活動的な日常生活を送るためのアシスト手段の開発を考えていく。
⑯の「次世代の担い手を育む成育サイクルへの対応」では、不妊治療に用いる技術、周産期・出産・新生児の疾患リスクを低減する手段、医療的ケア児を補助・支援する機器の開発を考えていく。
⑰の「院内オペレーション改善」では、診断・病院経営に関わるオペレーション(業務)を自動化・効率化する手段(機器、システム、サービスなど)、より簡単に院内の医療環境を維持する手段(院内感染の予防など)の開発を考えていく。
開発支援の7項目示す
事業管理と支援分野の2側面で
医療機器開発における注目の17領域の制定を踏まえ、AMEDの医療機器開発支援の方向性を『事業マネジメントの方向性』と『支援分野の方向性』の2つの側面から7つの支援策を示している。
7つの支援策として『事業マネジメントの方向性』では⑴AMEDとしての研究開発方針の検討・提示⑵研究開発マネジメントの一層の充実⑶基礎から実用化にいたるまでの円滑・連続的な支援⑷複数プレイヤーの連携促進――を示し、『支援分野の方向性』では⑸基盤整備(横断的課題への対応)⑹基礎研究などへの支援⑺ハイリスク分野への支援――を提示した。
各支援策の内容としては⑴の「AMEDとしての研究開発方針の検討・提示」では中長期的に革新的医療機器開発での医療ニーズを踏まえた重点分野の検討や個別分野の対応戦略の検討を行っていく。⑵の「研究開発マネジメントの一層の充実」ではステージゲート的評価の考え方の整理、事業化をゴールに見据えた評価の一層の充実、内外競合分析の強化などに取り組んでいく。
⑶の「基礎から実用化にいたるまでの円滑・連続的な支援」では基礎フェーズから実用化フェーズにいたるまで関係省庁の支援に横串を通す事業など複数事業にまたがる研究開発の円滑・連続的な支援を行っていく。⑷の「複数プレイヤーの連携促進」では個別技術に強みがある異なったプレイヤー間の連携、チーム化の支援のほか、医療関係者、学会など医療機器開発事業者との適切なチーム化支援を行っていく。
⑸の「基盤整備(横断的課題への対応)」では個々の研究者や企業では取り組みづらい分野共通、横断的課題への支援として、医療データを用いたソリューション開発に資する共通課題への対応や人材育成、開発ガイドラインの整備などを行っていく。⑹の「基礎研究などへの支援」ではアカデミアの研究テーマへの支援や、希少疾患分野への研究支援を行っていく。⑺の「ハイリスク分野への支援」では革新的な医療機器開発やベンチャーなどの初期段階テーマへの支援を行っていく。
今後、AMEDでは医療機器開発のあり方に関する検討委員会の報告書をベースに、医療機器開発支援のより一層の効果向上のための具体的なアクションを実施していく。
今後の医療機器開発で注目されている17領域
①医療・健康情報に基づく健康改善
②遺伝情報に基づく疾患リスク診断・発症前介入
③新たな早期検査の確立
④診療現場での迅速診断の確立
⑤医師の技術・ノウハウの形式知化(メディカルアーツ)
⑥ソフトウェアを用いた診断・治療の実現(SaMD)
⑦高度化された画像・光学診断の実現
⑧新興国や屋外・災害時での診断の実現
⑨既存の治療手段の改良・廉価化
➉人工臓器・組織の復元・再現
⑪コンパニオン診断・カスタムメイド治療の実現
⑫新たな低侵襲治療の実現
⑬治療機器の生体適合性の向上
⑭遠隔・在宅診断・治療への対応
⑮老化により衰えた生体機能の補助・強化
⑯次世代の担い手を育む成育サイクルへの対応
⑰院内オペレーション改善