業界団体

医療機器償還制度へ5つの提言【医療機器センター】

イノベーション促進と安定供給確保へ

医療機器センター(理事長=菊地眞氏、東京都文京区)は、医療機器の国民や患者への適切な提供を目的に、新たな償還制度の検討を行うため、昨年5月に「新時代の医療機器償還制度のあり方に関する検討会」(座長=印南一路・慶応義塾大学名誉教授、略称=新時代検討会)を設置し、検討を重ねてきた。このたび新時代検討会はイノベーション促進と安定供給確保の両面からみた新たな医療機器償還制度に関する5つの提言として、①医療機器の臨床的価値を念頭においた価格制度の必要性(逆ザヤ対策も含む)②物価等を念頭においた価格制度の必要性③大病院の医師の負担軽減のための新規医療技術の診療報酬上の評価(AI技術も含む)④医療イノベーション確保のための「新たな評価軸」の設定⑤安全使用に関して医療機器販売業者が担っているコストの診療報酬上の適切な反映――を発表した。

患者への適切な医療機器の提供へ

医療機器のイノベーション促進は、国民・患者が迅速に先端医療の恩恵を受けるため重要だが、現在の材料価格制度は1991年のバブル崩壊後の93年中医協建議をもとに設計され、運用されてきた。

一方、長期のデフレからインフレへの転換、円安と物価上昇、人口減少や医療従事者の働き方改革による人材確保の困難化、生成AIを含むAI技術の急速な進化など、大きな環境変化が起きている。

これらを背景に現行の材料価格制度や診療報酬制度の評価方法では、イノベーション促進と安定供給確保に懸念が生じている。こうした問題意識から、新時代検討会では国民・患者への適切な医療機器の提供に向け、新たな償還制度(現行制度の改善を含む)のあり方を議論し、5つの提言を報告書にまとめ、公表した。

提言①の医療機器の臨床的価値を念頭においた価格制度の必要性(逆ザヤ対策も含む)では、臨床的価値に基づく「必須医療機器(仮称)」の再算定制度の導入を提言した。

その内容は、既存の特定保険医療材料の中に必須医療機器の位置づけを導入し、臨床的価値の高い医療機器については、一定幅に加えて臨床的価値を評価した加算を行う。その際に必須医療機器に該当する医療機器であって、医療機関が他の代替するものがないなどの理由から、償還価格より高い価格で購入している、いわゆる逆ザヤになっているものは改定前償還価格を超えないという現行の規定を改正し、逆ザヤとなっている実勢価格を改定後の償還価格とする制度を導入することを提案した。

提言②の物価等を念頭においた価格制度の必要性では、市場実勢価一定幅方式への物価連動制(仮称)の導入を提言した。

具体的には、継続している物価上昇と、物価上昇を上回る賃上げを目標に行われている企業の賃上げや過去最大の最低賃金の引き上げにともなう人件費の上昇や、原材料費の増加などの状況も勘案し物価・人件費などの変動率を一定幅に加算することにより、現在の市場実勢価一定幅方式を準用しつつ、インフレ環境に対応することが可能になる。この際に改定前償還価格を超えないことが従前のルールではあるが、必須医療機器の逆ザヤへの対応と同じように、物価連動制(仮称)の運用にあたっては、改定前償還価格を超えることも可能とする制度改正も必要である、と提案した。

大病院の医師の負担軽減へ向け提言

提言③の大病院の医師の負担軽減のための新規医療技術の診療報酬上の評価(AI技術も含む)では、医療従事者負担軽減加算(仮称)の導入を提言した。

内容的には、加速度的に進む人口減少により、医療従事者の確保が困難になることを見据えるほか、診療報酬体系の複雑化や医療に対する患者の要望・期待の高まりにより、増えている医師の業務負担の軽減も含め、これまで評価の対象にならなかった医療従事者の負担軽減の視点を診療報酬上の加算などとして新たな評価軸に設定することを提案した。

さらに、診療報酬上の評価が難しいのであれば、地域医療介護総合確保基金における医療従事者の確保の補助対象として明確化することも1つの方策であるとした。具体的には特定保険医療材料への加算ならば何らかの加算にし、それ以外であれば、基本診療料などの加算とし、勤務負担の軽減条件や使用する医療機器の定義の明確化を求めている。

提言④の医療イノベーション確保のための「新たな評価軸」の設定では、▽保険外併用療養費の拡充として新選定療養(仮称)または先進医療C(仮称)の導入▽アウトカム評価の積極的導入▽重症化予防給付(仮称)の制度導入――を提言した。

保険外併用療養費の拡充では、令和6年診療報酬改定の選定療養に追加されたフリースタイルリブレや治療用アプリの保険適用範囲以外の選定療養としての利用といった事例について、個別対応として選定療養に位置づけるのではなく、保険外併用療養費として明確に類型化することで、新規の医療技術が出てきたときに円滑に選定療養を利用でき、必要とする患者に届けることが可能となる、と提案した。

アウトカム評価の積極的導入では、デジタルデバイスを含め、一定のアウトカム評価を前提にすることで、導入時点での対象者の限定や医療機関の限定を避けつつ、より迅速かつ広く、患者に利用してもらう環境整備を求めた。

重症化予防給付の制度導入では、高齢者の医療の確保に関する法律(高齢者医療確保法)に基づき、保険者が事業として実施している特定健康診査や特定保健指導などの生活習慣病予防対策のみならず、各種疾患の重症化予防において、医療機器などの有効性・安全性のデータが示されているものについて、健康保険法の療養の給付以外の保険給付として重症化予防給付を導入し、通常診療との連携を深め、再入院率を下げるなどの患者の利益を実現することを訴えている。

医療機器販売業者のコストを反映を

提言⑤の安全使用に関して医療機器販売業者が担っているコストの診療報酬上の適切な反映では、▽安全・安定供給加算(仮称)の導入▽医療機器DX管理体制加算(仮称)によるデジタル管理の推進――を提言した。

安全・安定供給加算の導入では、医師少数区域もしくは診療報酬上の医療資源の少ない地域であって、医療機関において手術などの立ち合いを実施するか、または医療機器のメンテナンスを実施するために医療機関に赴いて対応した場合に、特定保険医療材料の償還価格に一定の加算を設け、事業者が医療機関に請求する根拠を示すことの重要性を主張した。

医療機器DX管理体制加算によるデジタル管理の推進では、現在の在庫管理方法である預託在庫は、医療機器販売業者に廃棄損リスクがあるため、在庫管理の効率化のためにも、デジタル化の推進を求めた。デジタル化の推進は期限切れの医療機器の廃棄損リスクへの医療機関の責任の明確化をしつつ、そのリスクの回避のために必要なコード利用について、医療機器管理の体制について診療報酬上の評価を設ける必要性を示した。