「第1回医療機器講演会」開催【がん集学的治療研究財団】

手術ロボットの課題や方向性を探究
がんの臨床試験やがん研究者に向けた支援事業を行っている、がん集学的治療研究財団(理事長=山岸久一氏、東京都江東区)は、8月3日㈬午後4時から、東京・日本橋本町の日本橋ライフサイエンスビルディング会議室で「第1回医療機器講演会」を開催した。講演会は『医療現場を変革する日本発の手術ロボット~日本製手術ロボットの開発事情と臨床医学側の意見が聞ける~』をテーマに、日本で手術ロボットを開発している第一人者らが登壇し、講演会やパネルディスカッションが行われ、手術ロボット開発の課題や方向性についての発表や討論を繰り広げた。

医療機器講演会の開会にあたり、あいさつした山岸理事長(京都府立医科大学名誉教授)は「当財団は患者に優しいがん治療の開発・研究を目指して過去40年間で51本の研究論文を出している。がん治療は抗がん剤だけではなく、手術の時から始まるため、医療機器は非常に大切な分野だと考えている。これまでの当財団の実績とネットワークを活かし、医療機器分野の勉強を皆さまと一緒にしていきたい」と、医療機器講演会の開催趣旨を説明した。

次いで、松本謙一監事(サクラグローバルホールディング会長)は「当社は江戸時代から数百年、医療機器を生業としてきた。長年にわたり、医療機器を取り扱ってきた者からしますと、現在、医療は十分に広がっているが、医薬品と医療機器が並んで、車の両輪で進んでいけたら、さらに医療が広がっていくと思う。がん治療のみならず診断などの分野でも医薬品と医療機器が並んで頼りにされる時代だと思う。当社はここから歩いて5分ほどの大手製薬会社が軒を連ねる所にあり、製薬会社のど真ん中にいると、余計にそう感じる」と、医薬品と医療機器が共に発展することを期待した。

また、谷下一夫医療機器委員会委員長(日本医工ものづくりコモンズ理事長)は「私は工学系の者だが、ご縁があり医療機器の分野でお手伝いさせていただいている。当財団は創薬の臨床研究が中心でしたが、これからのがん治療は医療機器が非常に重要なため、医療機器事業を新設し、2020年1月に記念講演会を実施した。今回は定例となる第1回講演会で、手術ロボットをテーマに開催する。ご存知のように手術ロボットの開発は、臨床で多くのハードルがある。今日、お話いただく先生方から、多くのハードルを超えるヒントを得ていただければ幸いです」と有意義な講演会になることを祈念した。
このあと、講演会では岡山大学学術研究院の平木隆夫医歯薬学域教授が「医工連携により開発したがん治療のための針穿刺ロボット」、東京大学大学院の川嶋健嗣理工学研究科システム情報学専攻教授が「大学発ベンチャーによる手術支援ロボットの開発」を、それぞれ講演した。
引き続き、講演した演者2人に、藤田医科大学医学部の宇山一朗先端ロボット・内視鏡手術学講座主任教授を交え、パネルディスカッション(テーマ=手術ロボットは今後どのように臨床現場を変革するか)が行われ、手術ロボットが今後、医療現場にあたえる影響などについて、議論を展開した。
術者の被ばく防止で開発
「針穿刺ロボット」の実用化へ

講演のうち、平木教授は、針穿刺ロボット開発の背景について「針穿刺ロボットはCTガイド下IVR(画像下治験)に用いるロボット。CTガイド下IVRはCT画像をリアルタイムに見ながら病変に針を刺入して、腎がん凍結療法、肺がんラジオ波療法などの治療や、生検検査を行う手術。低侵襲、短時間、安価にでき患者には利点が多いが、術者にとってはCT装置付近で手技を行うため、被ばくを受ける欠点がある。そこで放射線の届かないCT装置から離れた位置から、遠隔操作で針を穿刺できるロボットの開発に着手した」と説明した。
針穿刺ロボットの開発の流れについては「2012年1月から岡山大学内の医工連携により開発を始め、1年半後に第三世代臨床用ロボットが完成。ロボットはCT装置の横に設置し、遠隔操作によりロボットアームが前方に伸び、CTの筒(ガントリ)の中で、ロボットアーム先端に取り付けた針を穿刺する。ファントム試験、動物試験、非臨床試験を経て、開発から6年後の18年には臨床試験を行うことができた。10例の患者に生検検査を行い、10例全て成功した。ロボットの不具合や有害事象はみられず、術中の術者へのX線被ばくもなかった。手技時間は4分以下(1例を除く)で、早いと1分かからなかった。この結果を踏まえ、現在は薬事承認申請に向けた治験を行っている。具体的には『人の手と比べて劣っていない非劣性を実証する』ため安全性の実装に取り組んでいる」と開発経過を解説した。
針穿刺ロボットの可能性とその効果に言及しては、①手技の自動化により、手技時間短縮と患者被ばく低減が可能②手ブレのない安定した針姿勢が保持できるため、人の手ではできない高度な穿刺が可能③穿刺技術の取得が容易なので、経験の少ない医師でも手技が可能④遠隔医療への応用により、術者間の技術格差が低減する⑤AI搭載も期待でき、へき地における高度医療の提供の可能性がある――の5点を列挙し、針穿刺ロボットの有効性を説いた。