年頭所感

年頭挨拶【一般社団法人 日本医療機器販売業協会 会長・浅若 博敬】

浅若会長

新年おめでとうございます。日頃から我が業界の事業活動等へご支援、ご協力を賜り厚く御礼申し上げます。

2019年6月に会長に就任して早や2期目に入りました。この間、諸課題に対応する組織を設け、将来にわたり積極かつ効率的に運営できる体制の検討をスタートさせましたが、コロナ禍という思いもよらない事態となり、密を避けるためそれまでほとんど馴染みのなかったリモートシステムなど取り入れながらの検討となりました。部会等の委員にはコロナ禍という状況下慣れないツールに戸惑いながら議論、意見集約に注力いただきました。改めて委員各位並びにその活動に理解いただきました会員の皆様のご協力に感謝申し上げる次第です。

さて、こうした検討の結果、医療機器業公正取引協議会医器販協支部のあり方を議論し、協会のコンプライアンス体制を検討・整備する窓口組織と位置付け完全内製化の方向を打ち出し昨年4月より協会の内部組織である公正競争規約委員会として活動を開始したことは皆様もご存知のとおりで、今後、企業倫理活動の推進や効果的な研修の実施というテーマとも連携させていくことにより業界の更なる質の向上を目指してまいります。

協会内組織については、コロナ禍の対応をはじめ必要な時に業界の役割・機能を施策へ反映させるためには、課題に対する考え方や方針を整理し発信していく機能を有することが重要との認識から整備し、提言のできる組織を目指しました。また、委員会、WGなど実務者の積極的な関与を促すことにより協会活動の一層の活性化を図ることや、昨今の多岐にわたる課題に円滑に対応するため、副会長による担当部門への総括的関与、業界団体との課題検討、調整の最前線として対応にあたる派遣委員間の連携については、議論やその内容、進捗を共有するとともに効果的な横展開を図ることなどを目指した見直しを行い、昨年6月の理事会にお示ししたところです。

提言を目指した取り組みとしては、皆様のご記憶にもまだ新しいと思いますが、2019年末から2020年にかけて新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックによりサプライチェーンの混乱が発生した際に行政側と取り組んだ「医療用マスクの安定供給スキーム」の対応を教訓として、今後パンデミック時のような緊急事態に備え業界はいかに安定供給を確保するのかその方向性を示した「パンデミック時の対応について(医療機器流通の立場から)」を纏めました。

提言はPPE製品に注目し協会のパンデミック等緊急時の備蓄の考え方を示す基本スタンスですが、これを基に関係団体などと議論しました。行政との意見交換では備蓄製品の回転について、行政側のスキームが既にストックした製品の扱いなのか、これから非常時に備える製品の扱いなのかなどの点で考え方を整理する必要があるのではないかと感じました。一方で、ユーザー側団体からは協会の提言は現場ニーズを考慮した持続可能性のあるスキームとして評価いただき、非常時に備えた備蓄の取り組みを共同で進めてはどうかご提案があり、備蓄品の管理に欠かせないPPE製品のデータベースの検討から取り組むこととし作業チーム、検討会を設けて動き出したところで、着実に成果が実を結ぶことを期待しております。

昨年動き出した取り組みとしてもう一つ、適正使用支援業務に関する勉強会の立ち上げがあります。行政との意見交換で適正使用支援業務にかかるテーマがだいぶ整理されてきましたので、本年は協会内のコンセンサスを得て次のステップ移行を検討してはどうかと考えております。そこで、協会内の意見集約にあたり改めて厚生労働省が2013年に策定した「医療機器産業ビジョン2013」に目を通してみました。2013年産業ビジョンは行政側と当時業界がかかえる課題などについて意見交換し、その内容をふまえ検討し医療機器産業界が目指す方向性へと展開され、そこに到達するには今後どうあるべきか提言されたもので、適正使用支援業務に対する考えを纏めるうえで大変参考になると考えます。

この2013年産業ビジョンでは既に当時の業界の状況として、医療機器販売業者の多くが医療機関の適正な使用に資する業務として、医療機器の使用に関する情報の速やかな提供と医療機器の保守管理や医療関係者に医療機器の使用方法の説明・支援などの業務を、質を確保しながら実施しているが、医療機器は通常少量多品目を使い分けされ、さらにユーザー向けに保守管理の方法、操作方法等の説明が必要なケースもあるなど受注から入庫・配送、納品、説明等に至る全ての業務を企業で担うことは経営上の重荷となっている場合があるとしています。こうした状況を踏まえ、同産業ビジョンでは、医療機器の販売業者は、医療機器を医療機関等に対して迅速かつ安定的に供給することに加えて、医療機器の保守点検や手術室に隣接した場所での技術的支援などの業務を通じて、役割を果たしてきたとして高く評価しています。しかしながら、同産業ビジョンは適正使用支援業務について、公正な取引慣行の醸成と伴に販売業者にとって、医療機器及び支援業務を提供する医療機関側との相互理解を深め、取り決めや申し合わせ等が交わされることを期待したいと提言しております。それまでの業務の範囲や内容などの確認が何ら存在しない形の適正使用支援業務の提供では経営上の重荷が増すばかりでその存続がおぼつかないことや、ひいては業界の安定供給が立ち行かなくなることを示唆していたことがうかがえます。

また、同産業ビジョンは東日本大震災発生時の対応やその他多くの事態で被災地等への必要な医療機器の速やかな輸送等を通じて、業界が医療提供体制の維持に努めた実績から重要な危機管理の機能として医療機器販売業者が中心的役割を果たすことを期待していますが、前述のとおり業界に負担ばかり重くのしかかる状況ではそもそも平時の安定供給の確保が困難となりますので災害時、非常時の安定供給の確保は言うまでもありません。

業界として自ら効率化に資する努力を惜しまないことは当然のことで、例えば医療機器製品情報のデジタル化、コード化を推進することは電子的な受発注・在庫管理、人為ミスのない効率的なトレーサビリティの確保などに寄与すると考え、バーコード表示の適正化の取り組みを進めてまいりました。また、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の医療機器スマート物流分野において実証研究に参加してきましたが本年は次の段階の検討に入る予定です。

こうした効率化への努力をしてもなお、現在の薬価・償還材価格の改定傾向や業界をとりまく諸情勢を鑑みるとこれまでの業務の進め方では負担は解消されずむしろ増すばかりで、安定供給確保の取り組みや適正使用支援業務の持続可能性は困難を極めるのではないか大いに懸念されるところです。

そこで、多くの示唆に富む2013年産業ビジョンの提言を実現できるか今年は重要な一年になると思います。如何に業界を上げて意識を変え課題克服に向け取り組めるか問われる時期にきているのではないでしょうか。

さらに、同産業ビジョンの提言は、団体組織のあり方にも言及しており、産業界の構成企業は扱う製品も多岐にわたり、各社は自らの経営に直結する分野に関心が偏りがちで、産業界としてのまとまりに欠け、政策提言内容が分散又は相反するケースがあると指摘したうえで、医療機器産業界の団体では企業間の個別具体な課題はともかく、産業界全体の発展に寄与する共通課題も多く、産業界の底上げに寄与する課題に対して、企業人ではなく、業界人として参画し、協力・連携し合う意識を共有するとが重要だとしています。

今後、業界の発展や負担軽減につながる取り組みを通して、産業ビジョンの提言もふまえ医療機器産業の成長に貢献し我が国の経済発展のみならず、国民の保健衛生の向上にも寄与することを改めて念頭に置きつつ活動してまいりたいと考えます。

最近は行政からコロナ禍の検査体制の推進をはじめ、PPE製品の効率的な備蓄方法や緊急時における感染症対策物資の確保に関する制度検討等のアプローチが多くなっております。こうした検討の場では改めて我々業界が製品を医療現場に持続的に安全性も担保しながら安定供給していることの大変さ、重要性を認識し、製品は使われなければその意味をなさないことを理解いただき、業界にとって少しでも望ましい形で提案できるよう努めていきたいと考えております。

協会員をはじめ関係の皆様方には今後、一層のご支援並びにご指導・ご鞭撻の程宜しくお願いし、私の年頭の挨拶とさせていただきます。