年頭所感

「令和4年新年のご挨拶」【公益財団法人医療機器センター 理事長、一般財団法人ふくしま医療機器産業推進機構 理事長 菊地 眞】

新年明けましておめでとうございます。新たな年を迎えられましたことを心よりお慶び申し上げます。

さて、一昨年初頭から始まった新型コロナ感染症(COVID19)が全世界を覆い尽くし、ほぼ2年が経過した今日でも終息の見通しが見えず数種に及ぶ変異ウイルス株が世界中で出現して全く予断を許さない状況が続いております。本年もまた『Withコロナの新たな社会・生活様式』を引き続き実践する年になりましょう。

このような時代背景を受けて、医療機器の研究・開発並びに市場化においてもここ数年間で明らかな変容が顕在化しており、コロナ後の本格的な社会経済活動再開に向けて医療機器産業界においても「新たな時代の幕開け」を強く予感させる新年となりました。

昨年の第5回日本医療研究開発大賞ではコロナ感染症において顕著な救命効果を発揮したECMO(体外式膜型人工肺)が審査会においても高く評価されたことが記憶に新しく、この他にも近年徐々に進展していた医療機器DX化のうねりがコロナパンデミックによって鮮明化しスピード感が増してきました。健康・医療戦略推進本部のもとで活動する「医療機器・ヘルスケア開発協議会」においてもポストコロナ下における医療・ヘルスケア産業界の方向性や今後の在宅医療の在り方と必要になる医療ヘルスケア産業が議論の中心課題になっています。平成26年6月に公布・施行された「国民が受ける医療の質の向上のための医療機器の研究開発及び普及の促進に関する法律(医療機器促進法)」に基づく医療機器基本計画(座長・菊地眞)は本年が改定の年となり鋭意検討が進められていますが、同様にデジタル化を踏まえた注目領域(ハード・ソフトの融合、AI医療機器、ヘルスケアデバイスなど)や新型コロナウイルス感染症を踏まえた対応、さらにはそれらを具現化するためのエコシステムの構築や海外市場展開促進、さらにはAMED事業の新たな展開などが主要課題になっています。

加えて、今後わが国は勿論のこと、地球規模で極めて重要になるヘルスケア関連事業の産業化の大きな課題も控えており、「健康・医療戦略」と併せて「グローバルヘルス戦略」を産官学臨が手を携えて融合的かつ効果的に社会実装する環境を創出する歴史的幕開けの寅年となる事ことを感じています。このように医療機器の新たな時代の始動の年として、関係者皆様方の大いなるご発展の年になりますよう期待します。

公益財団法人医療機器センターでは、昨年4月から第二期中期経営計画が始まりました。第二期中計は、令和3年度から令和7年度の5年間の計画で、これから先10年程度の予想されうる社会経済の環境変化(人口減少社会、ポストコロナ社会、パンデミック・大震災の再来の前提、医療・ヘルスケアの位置づけ・役割の再定義等)や一昨年に実施した「当財団への産官学臨のステークホルダーからの期待事項の可視化調査」を踏まえて策定されたものです。具体的には、第一期中期経営計画の5つの柱(①信頼される中立的機関、②事業化の支援、③シンクタンク機能の強化、④教育・人材育成、⑤情報提供・パブリシティ活動)を継承しながら、②事業化支援の中では、特に「認証事業の強化」を行うとともに、新たな活動として「人財」および「情報」のハブ機能の明確化・強化を行ってまいります。また第二期中計を実現すべく、財団内部の「総合力を発揮し、飛躍」できる組織体制の整備を行っていくため、昨年4月から、従来の企業研修部と医療研修部を新たに研修事業部として統合し、研修内容・企画力の強化や顧客の利便性向上に努めると同時に、デジタル化時代への対応のためにデジタル化推進室(DX推進室)及び広報機能を強化すべく広報担当部長の新設などを行いました。DX推進室は室長以下全員30代以下の若手人材を起用し、当財団全体、また各部署のデジタル化の推進役のみならず、『明日の医療機器を育てていく』取り組みを加速すべく、ステークホルダー(産学官臨)に変革をもたらす仕組みも見据えた活動も行ってまいります。

ここでは、「認証事業の強化」、「ハブ機能の強化」としての取り組み、また設立後13年目となる医療機器産業研究所の取り組みについてご紹介します。

「認証事業の強化」としては、一昨年9月に続き、昨年4月にも製品審査員を1名増員したほか、新たに数名のQMS審査員の採用を行いました。当財団が医薬品医療機器等法に基づく登録認証機関となったのは平成17年7月で、令和元年7月は15年目という節目となり、ちょうど第一期中計の後半となったことから第二期中計も踏まえ、体制強化としてのこのような審査員の充実を段階的に行ってきており、本年においても、次の取り組みを確実に実施してまいります。

「より丁寧な認証業務の実施」に向けて、①新規参入企業や中小企業にもやさしい料金設定(認証維持料金が無いのも特徴です。)、②HPを通じて認証申請に関する無料見積もりの申し込みが可能、③認証に関する無料説明会の毎月開催(HPを通じて申し込みください。)、④HPを通じて認証申請に関する無料面談の申し込みが可能、⑤事務処理期間の達成率はほぼ100%(認証申請受理後、直ちに審査に着手。QMSの実地調査無しの場合の新規申請の標準的事務処理期間は65日のところ令和2年度実績の中央値は業務日で12日)、⑥顧客に対するアンケート調査において、認証審査の信頼度は5点満点中4.32点、満足度は5点満点中4.27点と高い評価(令和2年度)、⑦医薬品医療機器等法及びQMS省令の改正を踏まえた「医療機器の法令関連用語集(第4 版)」の顧客への無料配布、などを継続してまいります。

「専門性の高い認証業務の実施」に向けて、①当財団を含めてわずか2機関のみである、全ての範囲の指定高度管理医療機器、指定管理医療機器及び指定体外診断用医薬品を審査対象としている認証機関としてあらゆる認証審査に対応可能、②特に当財団による認証比率が高い歯科用医療機器や、持続的自動気道陽圧ユニット(CPAP)などの指定高度管理医療機器(クラスⅢ医療機器)の審査に積極的に対応、などを継続してまいります。

このような取り組みを通して、令和6年7月に迎える20年目までにこれまで以上に新規参入企業や中小企業に頼られる認証機関に成長していきます。

「ハブ機能の強化」としては、当財団は従来から公益財団法人として、産業界(産)、大学・学会関係者(学)、行政(官)及び臨床の現場で日夜奮闘されている医療関係者(臨)を加えた産学官臨のパイプ役として、今日の国際化時代に対応できる医療機器の環境を整備し、産業の育成と支援並びに国民保健の向上に寄与すべく、信頼できる中立的な機関として、研究開発、市販前規制、市販後安全・適正使用などの医療機器のライフサイクルに適した各事業を進めてきたところです。これまでにも医療機器各団体や学会との連携しながら、各事業の推進を行って来ましたが、最近は公益社団法人日本医師会、四病院団体協議会、公益社団法人日本薬剤師会などとも具体的な連携に基づくサイバーセキュリティ対策などの社会的課題の調査や提言、薬局における医療機器の取扱い等に関するテキスト作成などを行ってきているなど、中立的立場であるという特徴を踏まえた「情報のハブ機能」と「人財のハブ機能」としての機能強化と外部組織との連携強化を行っています。

さらに平成30年6月から開始しました就活生向け医療機器産業魅力発信ウェブサイト「医機なび(http : //www. iryokiki-navi.com/)」の取り組みの一環として、令和2年11月には業界初となる就活生を対象とした『ヘルスケア・医療機器業界WEB合同企業研究セミナー(500名以上の参加)』を開催し、令和3年6月には『ヘルスケア・医療機器業界シューカツスタートダッシュ!WEBセミナー(1000名以上の参加)』を開催し、令和3年11月には『ヘルスケア・医療機器業界WEB合同企業研究セミナー2021(1200名以上の参加)』を開催し、イベント終了後のアンケートでは9割以上の学生が本イベントに満足するなど、「医機なび」は着実な成長をしてきました。

「医機なび」では文系、理系、医療系を問わず、就活生に医療機器・ヘルスケア産業を知ってもらう、そして興味をもってもらうための活動を行って来ましたが、その過程の中で先ずは全国の大学のキャリアセンターの方々に医療機器・ヘルスケア産業の魅力を理解して頂くことが必須であると考え、キャリアセンターとの交流活動も行ってきました。中立的立場であるからこそ出来る「ハブ機能」としての役割がここにもあることを改めて実感しています。次なる「ハブ機能」の役割として、医療機器開発に意欲のある若手研究者を支援するための民間助成財団との連携なども視野に入れて本年も様々なステークホルダーとの連携による具体的「ハブ機能の強化」を行っていきます。

医療機器産業研究所としては、一昨年からシリーズとして行って来た10周年記念イベント『MDSI  Activities』の事後アンケートにより、これまでの活動や取り組みについて88%の方が前向きに評価、今後の活動について100%の方が期待されており、シンクタンク活動に対する皆さまからの期待値の高さを改めて実感しています。そこで医療機器産業研究所は、より活動方針を明確化するため、これまでの調査研究と提言を表現していた『Research & Discussion』に止まることなく、課題解消の実現に向けた活動まで含めることを表現するため『Research & Discussion & Action!』を掲げる宣言を昨年行いました。医療機器産業を取り巻く環境及び中長期的な課題について恒常的に分析検討し、提言を行うことは勿論ですが、皆さまとともにその課題の解消に向けた活動まで実施してまいります。

そのためには課題認識を自ら的確に行っていくことが大事ですので、昨年は当財団研究員がリサーチペーパーNo.34「海外論文調査および海外臨床研究からみたAI医療機器の開発動向調査」、リサーチペーパーNo.35「米国FDAにおけるAI医療機器の承認動向に関する研究」を作成・公表しました。AI・デジタルヘルス関連領域はこれから益々成長が期待される分野でありますが、医療機器産業研究所ではこのような新しい領域について、いち早く動向調査等を実施しながら、医療機器産業の発展に努めてまいります。

本年は第二期中計による事業活動を行う2年目の年となります。一方、新型コロナウイルス感染症のパンデミックから未だ世界は脱却できる見通しは立っておらず、在宅ワークやeラーニング、ウェブ会議等のデジタルツールによる非接触活動が日常となりました。他方、コロナに起因したものですが、国全体・社会全体が医療に直結しているということが明らかになるなど、社会変革や技術進展にあわせて当財団も随時変化していく必要性を感じています。

医療機器センターは、これからも産官学臨のパイプ役となって『明日の医療機器』を総合的に支援していく活動を更に充実させていきます。今後も皆様方からの倍旧のご指導・ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

次に、ふくしま医療機器産業推進機構では、福島県から2016年11月に開所した「ふくしま医療機器開発支援センター(以下「ふくしまセンター」という。)」の管理運営を受託しておりますが、このふくしまセンターは医療機器の開発から事業化までを一体的に支援する国内初の施設として整備されたものであり、福島県が進めてきた「次世代医療関連産業集積プロジェクト」の拠点施設です。近年益々その役割の重要性と発揮する機能に対して、医療機器産業界のみならず、医師・看護師・臨床工学技士など各方面の医療チームの方々からも大きな期待が寄せられつつあり、大変喜ばしく思っております。

ふくしまセンターが行う「医療機器の安全性評価試験」の最大の特徴は、大型動物(実験用ブタ)に特化した生物試験から電気・物性・化学分析試験をワンストップで実施できることにあります。開所以来、ふくしまセンターでは、在籍する獣医師や放射線技師、臨床工学技士等による専門的な管理の下、骨材料の長期埋植試験や血管内治療カテーテル、デバイスの性能評価等を実施してきたほか、病理検査や血液・尿検査等についても信頼性の高い試験データを提供しております。また、医療機器に対するEMC試験や電気安全性試験を始め、防水・防塵試験や梱包輸送試験、インプラント用骨ねじの引抜試験、RoHS指令対象物質の分析や残留ガス分析など、各種の電気・物性・化学分析試験についても多くのお客様からご愛顧いただいております。

ふくしまセンターに求められる「開発から事業化までの一体的支援」につきましては、福島県と連携しながら、試験や評価の実施に加え、開発支援やマッチング、販路開拓、海外展開など、お客様のニーズや課題に合致した総合的な支援に取り組んでおります。特に、コンサルティング事業においては、当機構独自に展開する「Step by Step SUPPORT事業」で事業者の実務を個別にサポートすることを始め、薬事専門家や当機構アドバイザーを派遣して相談助言等を行うことなどにより、医療機器開発の支援に努めております。また、マッチング事業では、昨年9月から17回目となる医療機器設計開発・製造に関する展示情報展「メディカルクリエーションふくしま2021」を、一昨年に引き続きオンライン展示会として開催しており、10月末のメインイベントでは、コロナ禍にもかかわらず約2700名ものご来場をいただき、開発担当やエンジニアの方々、大学等の研究者の皆様方等が新しい技術や新しい製品の創出に向けた活発な情報交換を行いました。

さらに、順天堂大学や福島県立医科大学など様々な研究機関との連携事業の実施に加え、昨年2月には国立がん研究センター東病院と「医療機器開発支援に関する連携協定」を締結し、医療機器の保険適用に関するセミナーを共催で開催したほか、今後は、ふくしまセンターの職員を派遣することで、医療従事者や医療機器開発メーカーとの人材交流を図り、医療現場のニーズをくみ取って、県内ものづくり企業に還元していくことなども検討を進めています。

ふくしまセンターは、昨年11月に開所して5年が経過しました。これまでの5年間は、試験機関としての基本的な機能を備えるための期間(第Ⅰ期)でありました。昨年4月から新体制がスタートした現在、今期をふくしまセンターが「国内随一の医療機器開発支援拠点」となる足がかりの第Ⅱ期と位置付け、4つの事業方針を掲げております。

一つ目は、ふくしまセンターの各種活動やそれによる成果を積極的かつ適切に広報し、県民及び関連業界に周知してセンターの認知度を上げ、福島県が医療機器産業の先進県であることを広く知ってもらうことであります。

県内報道機関向けへのメディア戦略を実行に移し、テレビ・新聞など様々な媒体による報道が大幅に増加しました。また、県民にふくしまセンターの役割とその業務を知ってもらうため、センター開所以来初めてとなるオープンイベント「医療機器わくわく体験デー」を開催したところ、約700名の方にご来場いただき、センターの中が子供たちの歓声であふれました。

二つ目は、センター運営に不可欠な医療機器GLP、ISO/IEC17025、AAALACの各認証を維持更新し、顧客の依頼に確実に応えるための人材確保・育成と組織体制の整備を進め、顧客からの信頼を得るための企業文化を醸成することであります。

ISO/IEC17025につきましては、EMCや電気安全性、化学分析試験等の分野において、昨年、認証の更新審査を受審し、滞りなく更新することができました。また、動物愛護・福祉の観点から認証取得しているAAALAC Internationalについても、昨年、認証の更新審査を受審したところであります。さらに、医療機器GLP(優良試験所基準)の適合施設としての認証につきましては、適合拡大に向けて取り組んでおります。これらの第三者認証をセンターの「強み」として発信し、更なる信頼性の向上に努めるとともに、海外からの試験受託も視野に入れながら、より一層、お客様のニーズにお応えできるよう取り組んでまいります。

三つ目は、ふくしまセンターの各機能を個別に推進するのではなく、関連させて推進することで相乗効果を生み出し、人材の育成、経験の蓄積をも図ることで、医療機器開発支援のプロ集団を目指すことであります。

昨年8月に、県内高校生を対象に、『医療』や『医療機器』の魅力に触れてもらう機会を提供し、センターならではの機能や技術を体験してもらいながら医療関連のものづくり企業を知ってもらう「医療のしごと体験デー」を開催したほか、前述の「医療機器わくわく体験デー」も職員の全員参加で開催したことが、職員間の理解と連携深化、さらにはプロ意識の醸成にも大いに寄与しました。

四つ目は、臨床及び医療機器産業におけるニーズ・シーズを捉え、新たな戦略的事業の開拓を目指すことであります。

コロナ禍においてトレーニング機会を失った医師や看護師などの医療従事者に対する医療トレーニングの需要が高まり、昨年7月、センター組織に新たにトレーニンググループを設置しました。医療現場に即した施設・設備環境を提供できる当センターの機能を最大限活用するとともに、医療従事者とものづくり企業との接点を創出し、医療現場のニーズをくみ取った医療機器の開発から上市までを一体的に支援する体制が整いました。

また、昨年6月地域連携拠点自立化推進事業(AMED事業)に採択され、ふくしまセンターが東北地方の広域連携拠点として、医療機器開発エコシステムの構築に向けた取組を進めています。

引き続き、ふくしまセンターは、県内の医療機器メーカーや医療機関等に対し付加価値の高いサービスを提供し、福島県の医療関連産業の育成・集積に積極的に取り組むとともに、我が国の医療関連産業全体の更なる発展に貢献してまいります。皆様には、今後とも「福島へ行けば何とかなる」を合言葉に、是非ふくしまセンターをご利用いただき、ご愛顧くださいますようお願い申し上げます。

以上、小生が共に理事長を務めます公益財団法人医療機器センター、並びにふくしま医療機器開発支援センターを運営します一般財団法人ふくしま医療機器産業推進機構に関して現況をお示ししましたが、わが国の医療機器開発・普及並びに産業振興やコロナ感染症パンデミックで顕在化した平時・緊急時のいずれの時相にも耐えうる堅固な日本の医療機器産業を強靭化するために、さらには今後の地球規模での真の医療提供価値を高めるための医療機器の研究・開発・普及の中核的拠点となることを目指して、二つの財団法人が共に手を携えて職員一同で精進して参ります。

最後になりますが、今年こそコロナ感染症に収束見通しが得られ各界各位が目標に向かって日々邁進出来ますよう心よりご祈念申し上げます。